
與儀 良太
取締役CCO
「同じ一日は来ない」会計事務所から取締役CCOへ。1人で始めたカスタマーサクセスは、16名の組織に。
会議室に、25人の店長が座っている。手元には50枚の資料。前に立つ與儀の横には、家から運んできたノートパソコンが2台とiPad。
説明を終えると、最初に返ってきたのはこの言葉だった。
「わけがわからない」
導入店舗数は100を超えていた。だが現場の反応は、ほぼ全否定だった。同じ説明会を4回。4回とも、同じことを言われた。
それから数年。FLAROの導入店舗数は2,000を超え、與儀が1人で始めたカスタマーサクセスは16名の組織になっている。
遠回りの17年
與儀のキャリアは会計事務所から始まった。3年間、ひたすら数字を締める仕事だ。その後は教育事業に7年、IT企業に3年、コンサルタントとして4年。業種も職種も、そのたびに変わっている。
「一見バラバラなんですけど、今思えば全部つながっているんです。数字の作り方は会計事務所で、人の育て方は教育事業で、システムの考え方はIT企業で、経営の見方はコンサルで覚えました。カスタマーサクセスって、その全部を使う仕事なんですよ」
会計事務所時代に感じていた違和感がある。決算を締めても、その数字が現場で使われることは少ない。経営が数字を見るのは年に一度か、よくて月に一度。正しい数字を作っているのに、それが誰かの明日を変えている実感がなかった。
代表・安部との出会いが、FLAROに入るきっかけになった。
「安部が語るビジネスのビジョンに感銘を受けて、入社を決めました。数字を正しく作る側から、数字を使って現場が動く側に回れるんじゃないかと思ったんです」
現在はカスタマーサクセス16名、セールス4名、あわせて20名を統括している。
「カスタマーサクセスって何ですか?」
入社当初の担当は、飲食店向けコンサルティングの仕組みづくり。転機はプロダクトの本格立ち上げだった。
「『そろそろプロダクトを立ち上げて本格的に事業をしたいけど、できるでしょ?』と代表に言われて。そこで任命されたのがカスタマーサクセスだったんです。最初は『カスタマーサクセス(CS)って何ですか?』という状態でした」
担当者は與儀ひとり。経験者もマニュアルもゼロからのスタートだった。
4回、同じ言葉を言われた
冒頭の説明会は、その直後の出来事だ。
ITツールに馴染みのない店長が大半だった。「これで売上が上がるんですか?」「今のやり方で困ってない」。資料を1枚めくるたびに、部屋の温度が下がっていくのがわかったという。
「4回とも同じようなことを言われて、心が折れそうになりました」
それでも、與儀はこの案件から降りなかった。
「逃げなかったんです。『じゃあどうやったらいいんだろう』と考えて、説明の仕方を一から作り直しました。1年以上かけて、ようやく関係ができた。今では担当者の皆様と気軽にやりとりできる仲です」
この一年で得た結論は、ひとつだった。
気合いでは再現できない。仕組みにするしかない。
1人だったCSが、16名になった
組織は変わった。カスタマーサクセス、カスタマーサポート、パートナーセールス。セールスチーム4名と合わせて、20名になっている。
人が増えて、與儀の仕事も変わった。「自分が対応する」から、「16人が同じ水準で対応できる状態をつくる」へ。
「昔は自分が全部行けばよかった。今は無理です。だから、自分の頭の中にあった判断基準を、全部外に出す作業をしています」
「使っている」では終わらせない
その出発点が、カスタマーサクセスの成功をどう定義するかだった。
「導入した、ログインした、機能を使った。これはゴールじゃないんです。FLAROを使って経営や業務が良くなった状態まで行って、初めて成功だと思っています」
そのために、お客様の状態を導入期・定着前半・定着後半・活用前半・活用後半の5つのフェーズで見ている。フェーズが違えば、出てくる質問も、こちらから出すべき提案も変わるからだ。
「活用率が低いお客様に『使ってください』と言っても意味がない。なぜ使えていないのかを突き止めて、そこを外す。だから必ず、なぜを一段掘ります」
朝の10分
週次の管理も作り直した。以前は「今週は何件でした」という報告の場。今は、異常を見つける場だ。
「数字を並べるだけの会議はやめました。今は、どのお客様のどこに問題が起きているのか、なぜ問題なのか、誰がいつまでに何をするのか。そこまで見える状態にしています」
状態は緑・黄・赤の3色。担当者と期限と次のアクションがセットで並ぶ。
「KPIを増やすのは好きじゃないんです。朝10分あれば、今どこに問題があるのか全部わかる。その状態を作ることだけ考えています」
異常は、人より先に見つける
さらに進んでいるのが、異常検知そのものの自動化だ。
お客様の店舗で起きている数字の異変を、担当者が気づく前にシステム側が拾い、通知する。すでに一部のお客様で動いている仕組みを、全社に広げているところだという。
「担当者が気づいた時には、もう手遅れということがあります。それなら先に教えてもらったほうがいい。CSの仕事を、後追いから先回りに変えたいんです」
仕組みにすると、冷たくならないか
ここまで聞いて、ひとつ疑問が浮かぶ。マニュアル、チェックリスト、3色の管理表、自動アラート。仕組みで固めていくほど、お客様との関係は事務的にならないのだろうか。
與儀の答えは逆だった。
「むしろ逆だと思っています。仕組みがないと、担当者は目の前の作業で手一杯になる。お客様の話をちゃんと聞く時間がなくなるんです。作業の部分を仕組みと自動化に渡して、空いた時間を人にしか出せない価値に使う。そのための仕組みです」
あの説明会で足りなかったのも、熱意ではなかった。準備と、判断の基準だった。
「若いから大丈夫?」を越えるために
組織が大きくなって、新しい課題も出てきた。
「若いスタッフが担当につくと、お客様側に『この人で大丈夫かな』という不安が出ることがあります。これは実力の問題じゃなくて、信頼をどう作るかの問題なんです」
そこで育てているのは、操作を教えられる人ではなく、信頼されるCSだ。製品知識、業務知識、顧客理解、コミュニケーション、問題解決力、そして信頼を作る力。この6つを分けて、それぞれに研修とマニュアルを用意している。
「仕組みを作った後は、定期的にテストをします。自分が一番のクレーマーを演じてロールプレイングをやることもありますね。まずは自信を持って話せることが大事なので」
現場でそれを引き継いでいるのが、CSチームリーダーの橋本だ。
「属人化しないようナレッジ化も進めていますが、最初のうちは人の手を入れて指導・チェック・管理することが必要で、そこは今まで一番長くやってきた自分が担っています」―― 橋本 春香(カスタマーサクセスチーム/リーダー)
與儀が作った型を、次の世代が回す。その形ができつつある。
ある一週間|取締役CCOの時間割
月曜 午前:チーム全体の週次確認。緑・黄・赤で状態を見て、赤が出ている顧客から着手を決める
月曜 午後:リーダーと個別に電話。「こう考えているけど、どう?」をすり合わせる
火〜木:お客様とのオンラインミーティングが中心。合間にマニュアル・仕組みの整備
不定期で既存顧客への出張訪問。運用開始後の関係づくりのため、定期的に現地へ
金曜:翌週のメンバーのタスクと担当配置を組み直す
「まだ一人ですべての業務を任せられるメンバーはいないので、どういうサポートが必要か、担当を組み直したほうが効率的かを常に考えています」
細かいルールがない会社
他社と比べて感じるFLAROらしさを聞くと、答えははっきりしていた。
「この規模の会社なら、もっとトップダウンが多いはずですが、それが全くありません。細かいルールは一切なく、結果だけ出してくれればいい。今の若いスタッフに合った働き方ができています」
それが職場の空気にも表れている。
「愚痴や悪口がないんですよね。実務にストレスを感じることはあるかもしれないけれど、人間関係でネガティブな意見は一切聞かない。思ったことがあれば、改善を一緒に考える形で直接伝えています」
1億の胃袋、その先へ
事業の将来性については、迷いがない。
「日本は文化的にも食を重んじる国です。1億人以上の胃袋があって、みんなお腹が空く。その飲食店を支えるプロダクトとしてFLAROがあります。しかも胃袋は1億だけじゃなくて、世界で見れば80億人分ある」
領域の広がりも見据えている。
「飲食店だけじゃなく、勤怠機能などはアパレルでも建設業でも医療でも、十分に入っていける領域だと思います」
その先に見ているのは、業界全体の健全化だ。
「健全で優良な飲食店を増やしていくことが、今の自分の夢ですね」
一緒に働きたい人へ
「新しいものが好きで、最後まで物事をやり遂げる人。かつ、チーム一丸となって働ける人を求めています。個人プレーではなく、チームの目標に対して『こういうツールがありますよ』『こういうやり方はどうですか?』と提案できる人。そして、それが採用されたら責任を持って最後までやり切る人です」
続けて、こうも話す。
「お客様の声を一人ひとりしっかり聞いて最後まで対応する。誰かが困っていたら支える。そういう人と一緒に働きたいです」
そして最後に、こう言った。
「同じ一日は来ません。ルーティンの中にもいろんな色があって、毎日が騒がしくて賑やかで、飽きることがない」
25人の店長に「わけがわからない」と言われた日も、2,000店舗を支える組織を動かしている今日も、與儀にとっては同じ一日ではなかった。会計事務所から始まった17年の遠回りは、たぶん、まだ途中だ。



